なるほど健康メモ

ヘリコバクターピロリ菌が発見されるまで(2009年3月号)

 今ではヘリコバクターピロリ菌(=ピロリ菌)がヒトの胃に住み着き、慢性胃炎や胃十二指腸潰瘍(かいよう)を起こすと広く認められています。

 しかし、この菌の発見には常識に挑んだ若き研究者の奮闘がありました。それまでは、胃酸の中で細菌は繁殖しないという先入観と、1954年に胃の標本に菌はいかったという論文が権威ある専門誌に載ったために、胃に菌はいないというのが常識でした。
 一度常識になってしまうと、その後の30年間に顕微鏡でこの菌を見た研究者は何千といたはずなのに誰もが見ぬふりをしたわけです。

 この状況を破ったのが1983年当時、30代のバリー・マーシャル先生らで、培養で胃炎患者の胃にピロリ菌の存在を証明しました。それでも学界の反応は冷たかったようです。そこで、マーシャル先生は“自ら”菌を飲み込
んで人体実験し、この菌が胃炎を引き起こすことを証明したのです。

 その後、紆余曲折ありましたが、慢性胃炎は 癌(がん)化の素因になることから、にわかに注目が集まり、ピロリ菌を殺菌すると長年の胃十二指腸潰瘍が治るだけでなく、特殊な胃腫瘍(しゅよう)が手術しなくても治ったとか、慢性湿疹や喘息(ぜんそく)などさまざまな病気とも関係するという報告が相次ぎました。

 こうして、マーシャル先生らは晴れて2005年のノーベル賞受賞となったわけです。現在、日本では難治性の胃十二指腸潰瘍に対し除菌治療が認められています。
 使う薬は、量は多目ですが普通の抗生剤と胃薬を1週間飲むだけで、それほど面倒ではありません。お近くの消化器科にご相談ください。