なるほど健康メモ

医の倫理が問われている(H29.2月号)

画期的な肺がん治療薬「オプジーボ」の登場は、肺がん患者とその家族に希望をもたらしました。これは、免疫チェックポイント阻害剤とよばれる薬剤の一つで、癌免疫を調節し、すでに高い奏功率を認めています。一方で、この治療法を選択すれば、一人当たり年間3,500 万円にもおよぶ薬剤費を要し、最大の見積もりで年間2兆円の国庫支出となるという推定が世間に知らされると、「高すぎる」、「薬価をさげるべきだ」という国民的議論が巻き起こりました。政府は緊急改定を行い、昨年11月16日、薬価を50%引き下げたことは耳目に新しいところです。米国では同種薬剤「キイトルーダ」が既に薬価承認され、近々日本でも市販予定となっています。2016年10月、医学誌NEJMに肺がん治療にも有効であることが発表されたことも追風となり、第一選択薬としてまもなく承認される予定です。

医の倫理が問われている(H29.2月号)

しかしこうした薬剤は、決して、すべての肺がん患者に有効なわけではなく、約3分の1の患者に効果がある程度です。医療財政の困窮状態を鑑みれば、こうした薬剤は、治療効果が期待できる患者に限定して処方されるべきでしょう。逆に、肺がん患者に安易に処方されることになれば、治療効果もなく、意図しない副作用で苦しませるというようなネガティヴな結果も予想され、国家財政の観点から医療財源の枯渇は免れず、総じて医の倫理に抵触する可能性があるのです。特定の抗がん剤が効果を表す患者をあらかじめ選別する「バイオマーカー」による適性の識別方法の確立が、強く望まれています。乳癌治療においては、「ガン細胞のエストロゲン受容体遺伝
子変異」がバイオマーカーの一つとして認められました(11 月 医学誌ランセット)。同じように、免疫チェックポイント阻害剤の開発とともに治療効果に直結するバイオマーカーの確立がなされることが期待されています。