なるほど健康メモ

麻酔の秘密その1(R3.5月号)

「麻酔の3要素って知ってる?」

私は実習に来た医学生や研修医に、あいさつがわりにたいていこの質問をします。正解率は学生6割、研修医9割といったところでしょうか。答えはずばり「鎮静・鎮痛・筋弛 緩(きんしかん)」です。

麻酔の秘密その1(R3.5月号)

「鎮静」とは意識がなく、眠っていることです。患者さんを眠らせるために、麻酔ガスの持続的な吸入や、注射薬の持続的な投与が おこなわれます。「鎮痛」はもちろん痛みを感じないことで、一番重要です。さまざまな神経ブロックや、麻薬(!)の注射がおこなわれます。「筋弛緩」は、体が勝手に動かないようにすることで、そのための特別な薬が注射されます。おもしろいことに、眠っていること・痛くないこと・動かないことは、互いに無関係な独立した概念なのです。人は眠っていて、痛みを感じなくても、筋弛緩されていないと、呼吸やせきで勝手に動くことがありますし、鎮痛が不十分だと、眠っていて動かないけれども、痛みのせいで心拍数や血圧が上がることがあります。痛みがなく、動けないけれど、目はさめている状況だって存在しえます(そうならないように麻酔科医はずっと患者さんを観察しています)。

では麻酔の3要素はすべての手術に必要かというと、そうともかぎりません。短時間で終わる足の骨折の手術は、腰から針を刺す神経ブロック(腰椎麻酔)でしっかり鎮痛すれば、これだけで手術可能です。とは言っても、ご要望に応じて鎮静を追加することもあります。麻酔は手術の内容と患者さんに合わせたオーダーメイドなのです。